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ひつじの住処です
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「わぁっ!すごいの!ヒトがいっぱいなのよ!」

 ヒトの姿になった子羊は、目をきらきらと輝かせます。
島の市場に足を踏み入れると、そこはヒトであふれていました。

「例の彼は見つかりそう?」

 ひつじの後ろをゆっくりとついてきた僧侶様は、大きく伸びをしました。
ふわふわの茶髪がふわりと揺れます。

「探すの。愛の力は偉大なのよ!」
「うん、それならきっと見つかるね。」

 少年は、振り返りにっこり笑うひつじに笑顔を返し、そしてひつじの頭を優しく撫でました。

「僕はここでお別れだからね。」
「ふえぇぇぇぇぇえ」
「僕が出来るのはここまでだよ。むしろ、ここからもついて行ったらおじゃま虫になっちゃう。」

 僧侶様が笑いながら言うと、ひつじは頬を赤くしてうつむきます。

「うー………僧侶様、ありがとうなのよ。」
「後はひつじが頑張るんだよ。」
「うん!ひつじ頑張るのっ!だからまず”旦那”を捜すのよ!」
「だんな…?」

 僧侶様が首をかしげると、ひつじは力強く頷きました。

「旦那なの!ひつじの飼い主は、いつもひつじに”旦那”の話をうれしそうな顔して話してくれたのよ。
 ”旦那”って大好きな人のことなのね!」
「…………うぅん…間違ってはいないんだけど…気が早いっていうかなんていうか…」
「違うの?」
「うぅん……まぁ………いいんじゃないかな旦那様で。」
「うん、旦那なの!」

 ひつじはうれしそうに笑い、そしてにぎやかな市場を見つめました。

「じゃあ、ひつじは行ってくるのよ!」
「うん、気をつけて。いってらっしゃい!」
「僧侶様も、元気でいてね!」
「うん………あ………ちょっと待って、ひつじちゃん。」

 僧侶様に引き留められ、ひつじは歩みを止めて振り向きました。

「なぁに?」
「これを持って行くといいよ。」

 僧侶様は、大きなケースをひつじに差し出しました。
ひつじの腰ほどまで高さのある、細長い大きなケースです。

「うー…ちょっと重いのよ…これなぁに?」
「僕の楽器なんだけど、ひつじちゃんにあげる。銀色だから、きっとひつじちゃんに似合うよ。」
「う?」
「トロンボーンっていうんだ。まずは持って行って。吹き方は後々、教えてあげるから。」
「…………うん!ありがとうなの!ひつじ、大切にするのよ!」

 ひつじは、うれしそうに微笑みました。
そんなひつじの姿を見て、僧侶様も微笑みます。

「うん、キミはずっと笑っていて。旦那の元で幸せになって。」
「うん!ひつじシアワセなの!ずっとシアワセでいるの!!!」

 ひつじは今度こそ、僧侶様に背を向け、歩き出しました。
 
 小さな小さな子羊の冒険は、まだはじまったばかりです。
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